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ニューヨークの病院内のビデオ:NY Timesの報道から

Updated: Jun 19, 2020

ニューヨークの2つの病院の内部を取材した時の映像(計6分18秒)をご覧下さい。これはピューリッツァー賞受賞者でもあるニューヨーク・タイムズのジャーナリスト、ニコラス・クリストフ氏が4月11日に発表した取材の記録です。

「この映像を見れば、人々は自宅待機するだろう」

と述べています。今もまだ外出している世界中の人に見ていただきたい映像です。知り合いにまだ外出している人がいたら、ぜひ自宅待機するよう声をかけて下さい。ここに登場する医療従事者や私の友人や知り合いの医療関係者も口を揃えて「外出しないでください」と訴えています。(ニューヨーク・タイムズの英文記事はこちらです。)



(以下は上のビデオのテロップの私の拙い仮訳です。)


担架の行列。幾人もの昏睡状態の患者が隔離室に。手で触れられるところはどこでもウイルスで汚染されていて危険、空気さえも。特に危険なのが患者に挿管する時。「日々自分も重病になるのだろうか、回復できるのだろうか、いかなる理由にせよこのウイルスで亡くなる若者の一人になるのだろうか、って考えている。」


この歴史的なパンデミックでは、ホワイトハウスでのブリーフィングが人々の記憶に刻まれるのではない。ホットゾーン(ウイルスに汚染された戦いの場所)にいる人々の心の痛みが人々の記憶に残るのである。


我々ジャーナリストは、通常最前線から戦争を取材するように新型コロナウイルスの取材をすることができないでいる。


「おはようございます。」「おはようございます。」


しかし、今回私は(ニューヨークの)ブロンクスの大きな打撃を受けた2つの病院内で二日間取材を許された。アメリカ国民の命を守ろうとする最前線の医療従事者たちがどのような犠牲を払っているか目撃するために。


「これからCovid(新型コロナウイルス)のエリアに入ろうとしています。ここから入る人は誰もがこうした防護服を着ます。こちらの男性の方が私がきちんと保護具を身につけられるように手伝ってくれています。」私はどうしたらいいか全くわからないので。「私はPPE(個人用保護具)モニター担当です。」



Doctors in the emergency room at the Jack D. Weiler Hospital in the Bronx. (Credit: Michael Kirby Smith for The New York Times)
ニューヨークのウェイラー病院のERの医師たち(出典 ニューヨーク・タイムズ、Michael Kirby Smith)


「もう一人患者が(救急車から」降りてきます。」「その患者を見つけて。」「その患者を上の階に連れて行って。」


デボラ・ホワイト医師は戦場で指揮する将軍を思わせる。


「私たちはこうした状況を想定して訓練されているんです。これは一生に一度あるかないかの状況ですので、私たちの職務上重要な局面なんです。」


「上の階、上の階にね。」ホワイト医師は、医療従事者たちの士気を保ちつつ、人命救助にあたっている。


この日にニューヨークで800人が死亡した。


「ここの患者の多くは明らかに70歳台、80歳台ですが、若年層や中年の患者も多いのに驚いています。」「その通り」「26歳から59歳までの患者もいます。」


ホワイト医師はいつも病床を数え、すべての患者に絶えず注意を払っている。


「今、回診中で体調を確認しています。」


「時には人との交流が患者の病状を改善することもあるんです。バスが来たの?METUのバス(24〜32名の患者を一度に搬送できる医療用の特別な患者搬送用バス)が到着したので素早く上の階に行きましょう。早歩きしましょう。」


ホワイト医師はある難問に直面していた。患者数が多すぎて病床が足りない。使える病床数を増やすことができなければ、もっと多くの人が死ぬ。


「このバスは、この病院の病床を増やすために、患者をこの病院から、治療を受けることのできる他の病院へ搬送するバスなんです。前に見たこともないようなバスです。酸素も供給されます。搬送中に患者を支援する救命救急士も同乗しています。」


しかし、近くの病院に溢れる患者を必死に搬送する側で、新しい患者が流れ込んでくる。瀕死の患者がもう一人到着したことを知らせる赤電話が鳴り続ける。あまりに多くの患者が到着するため、限られた人数の医師や看護師のもとに担架の大渋滞がなだれ込む。その医療従事者たちは必死の最後の手段を試みようとしている。(人工呼吸器の)挿管である。


「人工呼吸器が要るの。人工呼吸器が。」「人工呼吸器が必要。」


「これからこの女性患者に挿管して、酸素交換状況を改善するため酸素レベルを上げる手助けをします。」

Doctors with a patient in the Montefiore Medical Center Moses Division emergency room in the Bronx. Credit: Michael Kirby Smith for The New York Times
ニューヨークのMontefiore Medical Center Moses Divisionの医師たちと患者(出典 ニューヨーク・タイムズ、Michael Kirby Smith)

この処置をすると、患者のウイルスが空中に吹き出るため、患者の命を助けようとする医療スタッフは甚大なる感染リスクにさらされることになる。


「深呼吸して。大丈夫だから。」「人工呼吸器が装着されました。」


挿管されている間、患者は話ができなくなる。そして、おそらく二度と話ができなくなるかもしれないということも誰もが知っている。人工呼吸器は人命を救うかもしれないが、それでも大半の患者は亡くなる。ここでの死には尊厳はない。患者へのお見舞いはご法度。患者は恐れおののいている。保護具を着ているため看護師の目すら見えない。私はこれまでのジャーナリストとしてのキャリアの間に多くの死についてリポートしてきた。今回の新型コロナウイルスによる死は、特に残忍だ。


「誰かが亡くなる。誰かが死ぬ。次の患者に向かう。誰かが亡くなる。誰かが死ぬ。次の患者に向かう。帰宅する前にこうした感情を処理する時間がないのです。その日起こったことすべてを思い出して帰宅してようやく泣くんです。あるいは帰宅後ようやく一息つけてその時にすべて吐き出すのです。病院ではそうした感情を処理する時間はないんです。」


これらの医師や看護師は自らの命を犠牲にして仕事をしているのに、私たちは彼らを見捨てていることになる。政府の対応に深く失望していると言う医療従事者もいた。アメリカは新型コロナウイルスのテスト準備において大失敗した。大統領はうろたえた。アメリカ人は(自宅待機せず寄り集まって)パーティを続けた。その結果、何千人もの無用の死をもたらした。


「私は集中治療室にいました。そこに来た二人目の患者は陽性反応が出ました。27歳の人でした。僕は今29歳です。この患者と同じくらい健康なんです。サイコロの目で決まる時の運という感じもします。」


「私は個人用保護具をすべてつけて患者さんのベッドの横に12時間いました。彼は私の手を掴むので、私は大丈夫ですよ、最善を尽くしていますから、と伝え続けましたが、彼の目を見れば恐れおののいているのがわかりました。とても心が痛みました。こうしたことはまだ私たちにとっても新しい体験で、できることをやっているだけで、この後何が起こるのかもわからないので。」


私から見るに、この戦いに勝つには、医療従事者の勇気と人間愛やいたわりの気持ちによるところが大きい。このウイルスを打ち負かすにはこれだけでは足りないかもしれないが、それを目の当たりにできることが誇らしい。


(以上、ニューヨーク・タイムズの報道ビデオの仮訳でした。)

渡邊理佐子

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